2012年6月30日土曜日

AGP 第8号


AGP日本語通信 第8号 (2012年7月号)


<日本語によるインド文化講座>

インドの社会
スシーラ・メノン

 インドはどんな国でしょうか。インドの社会はどんな人々から成り立っているのでしょうか。まずインドの人口から始めたいと思います。
 皆様ごぞんじのようにインドの人口は12億人を超えていて、世界第2位となっています。第1位は中国ですが、中国はさまざまな対策で人口増加を減らしているので、インドは2026年に中国を抜き、世界一人口の多い国になるといわれています。また面積で言うと、この図からわかるように、中国はインドの約3倍と広いので、インドでは人口密度が高くなります。現在でも、世界の人口密度の多い町として、ムンバイが1位、カルカッタが2位となっています。


 それでは年齢構成はどうなっているのでしょうか。このピラミッドをご覧ください。若い人の数が多くて年寄りの数が少ないですね。ということはインドはまだ若い国です。


 日本の年齢別人口と比べたら、こうなります。それで、日本の社会問題のうち、少子化や高齢化などはインド社会にはありません。逆にインド社会の問題は人口が多いこと、つまり人口爆発なのです。


 若い人が多いということは働く人が多く、国の経済的な発展となるので、そのままでいいと考える人もいるんですが、でも人口爆発は食料不足、住宅不足、用水不足、雇用不足というようにいろんな不足をもたらしますね。インドの人口を減らすために、前首相のインディラ・ガンディーは国民に「子供ができなくなるための手術」を施(ほどこ)すことを強制するといった対策を考えました。しかし、それは人々の猛反対を受け、そのためにインディラ・ガンディーは選挙に惨敗してしまいました。その後はこれといった対策もなく、現在も人口増加がインド社会の大きな問題と残っています。

異質社会
 インド社会の特徴は、異質であることです。というのは、さまざまな人種が、さまざまな言語を話し、さまざまな宗教を信じています。とても多種多様ですが、調和があります。インドは「多様性のなかの調和:Unity in diversity」といわれています。

インドの宗教 
 インドには世界の宗教すべてが存在しているといわれています。インドのもともとの宗教はヒンドゥー教ですが、仏教とジャイナ教が生まれたのもインドです。それ以外の主な宗教として、シーク教、イスラム教、キリスト教などがあります。インド人はたいていだれでもどれか一つの宗教に属しています。
 1947年にインドが独立した後、ムスリムの要求で国が宗教の基に分けられ、ムスリムのためにパキスタンがイスラム国家として独立しました。一方でインドは、ヒンドゥー教徒が多数を占()めるものの、どの宗教でも存在できるような国となりました。イスラム教徒はコーランを経典(きょうてん)とし、ヒンドゥー教徒とは考え方が異なるので、インドの法律では、イスラム教徒に対して特別な民法までできています。たとえばイスラム教徒なら3人の妻を持ってもいいなどのことです。
 それでは、インドの首相(マンモハン・シン)はどの宗教に属しているか御存知ですか。現在インド人の80%はヒンドゥー教徒ですが、彼はヒンドゥー教徒ではなくシーク教徒です。しかも、その首相はキリスト教のソニア・ガンディーによって任命されました。さらに、そのときの大統領はイスラム教徒でした。こちらの写真はそのときの様子です。インドにおける「宗教の調和」を示すシーンの一つといえるでしょう。

インドの言語
 インドには1000を超える言語があると言われています。その中でも1万人以上の使用者がいる言語は124語で、現在の公用語は24です。インドの紙幣をみても15の言語で書かれていますね。インド言語は大きく二つに分かれ、北インドはインド・ヨーロッパ語族、南インドはドラヴィダ語族に属します。南インドの言語にはインド・ヨーロッパ語族のサンスクリット語の単語が多用されています。
 これは、言語ごとに色分けされた地図です。

 緑色のヒンディー語がいちばん多く話されているんですね。それでヒンディー語が国語と認められています。でも、国語のヒンディー語が通じない州がたくさんありますので、主な書類や裁判所や州と州の間の通信などには外国語の英語がよく使われています。インドのテレビ番組をみても、いろんな言語の番組があるから、ものすごい数(500ぐらい)になっています。
 それではそんなにたくさん、違った言語を話している人々の国での議会はどういう風に行われていると思いますか?
 実は議会はヒンディー語や英語で行われていますが、それが自動的に、同時通訳されています。議員はイアホンで15の言語のうち好きな言語を選ぶことができます。
 インドには多くの言語が存在するため、全国民に通じる言語はありません。そこで、外国語の英語が共通語となってしまいました。
 現在、インドで1億2千万人が英語を話すことができ、それは総人口の11%です。世界における英語話者数はアメリカに続いて第2位で、イギリスよりも多くの人が英語を話していることになります。
 また、高等教育は必ず英語で行われているし、都会の小学校もほとんど英語で教育を行っています。また、恋愛結婚で別々の母語の人が結婚した場合、家庭でも英語を共通語として使用するケースも増えています。そこで、各州は自分の母語を守るためにいろんな動きをしています。カルナータカ州でも、店の看板やバスの行き先などはカンナダ語表記が必須(ひっす)となっていますし、公用語はカンナダ語で、政府からの通信などにはカンナダ語しか使わないなど、それぞれの言語が失われないような努力を行っています。日本のように全国で一つの言葉を話している社会と比べたら、とても複雑ですね。

インドのカースト制度
 外国人が興味をもつインド社会の特色がカースト制度でしょう。インドの複雑なカースト制度をちょっとのぞいでみましょう。カーストはもともとはヒンドゥー教での職業をもとにした身分制度です。
 ヒンドゥー教のカースト制度にはバラモン・クシャトリア・ヴァイシャ・シュードラの4つの身分がありました。バラモンは僧侶や教師であり、クシャトリアは王さまや武士で、ヴァイシャは商人や地主で、シュードラは一般の農民などというように職業のベースで分けられていました。また汚い仕事をする人たちはそのカースト制度のそとにおかれて、アウト・カーストやダリットと呼ばれていました。上の三つのカーストが上層とされ、シュードラが下層、またダリットですが、とても低くみられていて、その人たちは、触ってはならない、つまりUntouchableな身分とされていました。今はヒンドゥー教だけに限られていなくて、インドのどの宗教にも上層や下層があって、多数のカーストやサブ・カーストができています。

現在の状態
 独立後のインドの憲法(けんぽう)でカースト差別は禁止されました。しかし、突然みんな平等だといわれても、長い間不公平な扱いをされ、教育を受けることのできなかった下層の人たちは、以前からよい教育をうけ、恵まれている上層の人と競争できないはずですし、いつまでも下僧に残ることになります。そこで、政府はさまざまな対策を考えました。その一つは下層階級優遇政策です。

優遇制度
 優遇制度とは、公的機関での雇用者数や大学の入学枠の5割を下層階級のために確保しておく制度です。それ以外にも、大学入学資格のボーダーラインを下げるなどの優遇措置(そち)もあります。そのため、下層階級出身は下層にいつづけることを望み、安心してしまいます。下層が固定化してしまう恐れもあります。また、資格もなく公務の仕事や医学の進学などに入る人がいて、インド社会における仕事や教育の質の問題にもつながります。実際のところ、下層の人たちは常に経済的に弱いとはいえません。下層階級の人でもとてもお金持ちやステータスの高い人々もいれば、上層で貧しい人もたくさんいます。
 下層の人なら、経済的に余裕があっても優遇を受けられますので、上層で貧しい人に対しても優遇を要求する人が増えて、社会的な不安がおきています。下層に対しての差別をなくすためにできた優遇性が、逆差別を起こしてしまいました。

現代社会におけるカーストの存在
 公的機関・公立学校:優遇を受けるためにしか人のカーストが明らかになりません。カーストでの差別は法律的に禁止されています。優遇カテゴリーとジェネラル・カテゴリーと大きく分かれています。
 私立機関・私立教育機関:優遇制度が認められていません。たとえば、今のIT企業などではカーストは関係ないし、面接のときなど、応募者のカーストを聞くのは禁止されています。それで、優遇制度で機会を失った多くの上層の人がIT業界に入っています。
 結婚:お見合い結婚のときはカーストが重要です。恋愛結婚だと、同じカーストなら、家族に反対されませんが、違う宗教や、同じ宗教でも上層の人と下層の人なら、家族にすごく反対されます。下層の人と結婚したいという娘を殺すなどというひどいことをする人もいると新聞によく出ています。
 社会:下層の人なら失礼になるから、直接人のカーストをききません。また、ハリジャンやダリッとやロウアー・カースト(下層)などの単語を使うのも失礼とされていますので皆様も注意してください。インド人は互いのカーストを聞かなくても、少し話せば、言葉遣いや話し方でだいたいわかります。インド人は言語、宗教、カーストなどいろんな枠に属しますので、資格が一致すればするほど仲良くなる傾向があります。

結論
 インドの社会は異質で、さまざまな宗教、さまざまな言語、さまざまな人種でできている複雑な社会です。人々が祝う祭りも違うし、文化について話しても「インドでは…」と言えないほど異なる文化が人々の間に存在しています。そんなに違っていても、一つの国として平和に存在しています。たしかに「多様性のなかの調和」といえるでしょう。

529日の「日本語によるインド文化講座」での発表です。とてもおもしろいものなので、これから4回連載していきます。)


ココ

 12人ずつの2つのチームがあって、ゲームにはそのうち9人が参加する。まず追っ手のチームのうち8人が2つの柱の間にすわる。そのとき、1人おきに反対側を向いてすわる。9番目の者は追っ手である。つぎはランナーのチームから3人がフィールドに入る。それからゲームが始まる。
 まず、追っ手がランナーを追いかける。手でランナーに触ると、このランナーが負けで、フィールドを出る。追っ手が疲れたら、他のすわっている追っ手チームの者を「コ」と言いながら叩く。するとその追っ手が走り出し、その場所にコをあげた者がすわる。すして追っ手は交代にランナーを追いかける。追っ手は一度に1人しかいないことに注意する。
 ランナーは、どの方向にも走ることができるが、追っ手は自分が向かった方向にしか走れない。加えて、追っ手は自分のチームのすわっている人の間も通れない。向こうに行きたいなら、柱まで行って曲がらなければならないが、他の追っ手に番をまわすこともできる。ランナー3人とも負けたら、次の3人が入る。全員負けるまでこれを繰り返す。ひとつのイニングは7分だけで、次はランナーチームが追っ手になり追っ手チームがランナーになり、ゲームは7分続く。
 2つのチームのうち、負けた人数の少ないチームが勝つ。
           (ショバナ)

今月の川柳
 抽象画(ちゅうしょうが) さかさにみても 抽象画  リーラ
 新聞
 朝おきて わるいニュースを 読むカルマ(運命)  リーラ
 雨季がきた 交通事情 悪くなる  アラティ


今月のカンナダ語
Idhu nanna penIi pen nannadhu.
(イドゥ・ナンナ・ペン:これ・私の・ペン。イイ・ペン・ナンナドゥ:この・ペン・私の)
Adhu yaara manay? Aa manay yaaradhu? 
(アドゥ・ヤーラ・マネ?:あれ・誰の・家? アー・マネ・ヤーラドゥ?:あの・家・誰の?)
Idhu hosa camera. Ii camera hosadhu. Ii camera hosadhu alla (hosadhalla). 
(イドゥ・ホサ・カメラ:これ・新しい・カメラ。イイ・カメラ・ホサドゥ:この・カメラ・新しいの。イイ・カメラ・ホサドゥ・アッラ(ホサダッラ):この・カメラ・新しいの・ない)
Idhu swarasyawaadha pustaka. Ii pustaka swarasyawaagi idhey (swarasyawaagidhey). 
(イドゥ・スワラシャーダ・プスタカ:これ・おもしろい・本。イイ・プスタカ・スワラシャワーギ・イデ(スワラシャワーギデ):この・本・おもしろいの)
Ivatthu malay baatharay anthey (baatharanthey)
(イヴァットゥ・マレ・バータレ・アンテ(バーラタンテ):きょう・雨・来る・そうだ)
Ivatthu malay baatharay antha kaanathhey.
 (イヴァットゥ・マレ・バータレ・アンタ・カーナッテ:きょう・雨・来る・と・思う)
Namagay Tanaka awaru gotthu
(ナナゲ・タナカ・アワル・ゴットゥ:私に・田中・さん・知っている)
Mahishaasura emba (emmuwa) rakshanindha Mysuru emba hesaru banthu.
(マヒシャスラ・エンバ(エンムラ)・ラクシャニンダ・マイスール・エンバ・ヘサル・バントゥ:マヒシャスラ・という・巨人から・マイスール・という・名前・来た)


MA Japanese Course. Centre for Global Languages, Bangalore University.
P.K. Block, Palace Road, Bangalore - 560009, India