AGP日本語通信 第11号 (2012年10月号)
<インド文化講座・4>
インドの教育制度
インドといえば、「ゼロ」を発明した国。二桁(ふたけた)の掛け算ができて、英語もぺらぺら。IT企業の中心でITマハラジャがいっぱい。というわけで、インド人は本当に頭がよいのかと聞かれることが多々あります。優秀な人材を輩出しているインドの教育制度について紹介させていただきます。
古代インドの教育
古代インドでは子供たちは先生の家で先生の家族と一緒に住み、質素(しっそ)な生活をしながら教育を受けていました。それをグルクルといいます。使用語はサンスクリットでした。歴史によると、古代インドでは男女平等で、女性の学者もいました。
では、当時、インド人は何を勉強していたのでしょうか。
勉強する内容は身分によって違いました。バラモンはサンスクリット語で宗教や哲学を習いました。クシャトリヤは戦闘能力や支配方法を習いました。一方で、ヴァイシヤとシュードラは教育をうけることができませんでした。
紀元前200年からAD400年の間、仏教の下で医学など実際に役に立つ教育が行われるようになり、大学が設立されたのもこの頃です。
同期にタクシャシラ、ウジャインなど数学や天文学の勉強のための大学が設立されました。
ようするに、18世紀には、多くの宗教の寺院・モスクなどの施設や大きな村に学校があり、インド全土に普及していた読み書き、算数、神学、法学、天文学、医学、宗教について教育が行われていたようです。
イギリスの影響
一方で、農民には教育制度が適応されず、インドの識字率は残念ながら低下してしまいました。
現在の教育制度
インドの現在の教育制度をこれから説明させていただきます。
6歳から11歳まで、つまり1年生から5年生までの5年間は小学校(Primary school)で、11歳から14歳まで中学校(Upper primaryやMiddle school)の3年間です。この6歳から14歳までの教育は義務教育で、この8年間をElementary schoolともいいます。日本の場合は小学校は6年間で、中学校は3年間で、その9年間が義務教育ですね。
中学校卒業後の2年間はSecondary schoolで、その次の2年間はHigher/ Senior secondary といいます。
インドの学校は、以下の機関の管轄下(かんかつか)にあります。
CBSE―Central board of secondary education
ICSE-Indian certificate of secondary education
STATE BOARD
この三つではシラバスが違って、試験方法も異なります。CBSEやICSEの学校なら、全国同じ内容を勉強するので、国内転勤が多い場合も教育は問題になりません。State Boardの場合は州別シラバスなので、ほかの州に引っ越すと大きな問題になります。
前に述べた機関の管轄下にない学校として、インターナショナル・スクールが挙げられます。これは欧米の教育課程に沿った教育を施す学校であり、主に移民の子どもたちやインドの裕福(ゆうふく)な家庭の子どもたちが通っています。試験はIGCSE/IBの定めたものに合ったものが行われますが、インドの大学進学の入学試験には適用されていません。
IB International Baccalaureate
IGCSE International General Certificate of Secondary Education
学校で習う科目とか学校以外の習い事は日本とほぼ同じです。
政府の教育革命
独立後、識字率を高めるために政府はいろいろな対策を行ないました。
8年間の義務教育は国立学校の学費は無料です。経済的に貧乏な家族の子供達が通い、昼食も支給されます。人口の多いインドで国立学校だけでは子供全員に教育を受けることができませんので、官民協力(かんみんきょうりょく)でたくさんの学校が設立されています。それだけではなく私立学校も生徒の25%は経済的に恵まれていない家族のこどもを受け入れなければならないという法律になっています。
識字率:2011年の調査によると、インドの識字率は74.04% ですが、同じ時期日本の識字率はほぼ99%を達しています。最高の識字率の州はケララ93%、最悪はビハル63.8%だそうです。
就学率
• 無料義務教育6歳-11歳(Primary school): 93% 日本: 100%
• 高校(9と10): 52%
• 高校(11と12): 28% 97%
• 大学進学率: 23% 54.5%
識字率のグラフを見てください。
男性:82%
女性:65%
女性の識字率が男性より低いのはなぜでしょうか?
女性は結婚して家庭に入るために、教育より家事のほうが大事という考えが強いことや、学校の設備や安全性が確保できない場合が多いため、親が学校に行かせないということもあります。
そこで、女生徒に対して政府は無料で制服、教科書、通学のための自転車、バス定期券などを支給しています。
進学
今まで学校についていいましたが、これから大学進学を紹介させていただきます。
現在インドには 国立大学が約1500校、私立大学が約8000校、さらに専門学校が約1200校あります。
これはインドのTOP 100大学の内20校です。
インドの教育と言えば、技術系のIIT(インド工科大学)が有名ですが、IIM(インド経営大学院)、AIIMS(全インド医科大学)等、他にもたくさん有名大学があります。インドのTOP 10 工科大学がここにあげられています。ここで述べた大学に入るためには特別な入学試験があります。大学進学の競争が激しいので、試験のためにに塾に行く子供の数も増えつつあります。優秀な学生は、よい仕事につけるので、医学や工学を選択することが多いです。ほかの文学、歴史、数学などを勉強するためには、特に入学試験はありません。高校の成績によって選択できます。
日本と大きく違う点は、インドでは大学に入ってからも一生懸命勉強しなければならないことです。就職先も勉強した科目と関係ある分野を選ぶことが普通です。
2010-11年度では、中央政府によって創立された大学が79校あり、そのうち 15校がインド工科大学(IITs), 11校がインド経営大学院(IIMs)、30校が国立工科大学 (NITs)です。(source: ministry of HRD)
国内の大学への進学競争は激しいだけではなく、国内大学の状況も悪い。それで、優秀で経済的余裕がある家庭の子供はもちろんですが、余裕はない場合も教育ローンを組んで、家族の期待を一身(いっしん)に背負って海外留学し、その後海外で就職するという道を選ぶ人も多くなっています。
行き先として最も人気があるのはアメリカ、続いて英国、オーストラリアという順になっています(日本は一部を除いて日本語での授業を受けなければならないため、留学先としては人気がありません)。実際にインド人の医師やITエンジニアが米国で多数活躍しています。
しかし、アラティさんが述べたようにインド人にとっては家族はなによりも大事なので、年配の親たちの面度を見るために帰国することも多いです。夫と私もその理由で6年前に帰国しました。帰国後は、海外での経験を活(い)かして国内で活躍する人が多く、グローバル化を進める手助けをしています。
結論
いままで工学、医学、法律を勉強した方々しか尊敬されていませんでした。最近は子供たちの希望する科目を勉強させたい人も出てきました。それはインド人の視野が広がってきたことを意味しているでしょう。
受験者数が多いため、インドでは点数で学生の能力を判断する教育体制が取られています。成績に関する悩みから学生が気力を失ったり、自殺したりするような傾向が見られることから、点数主義のかわりに創造力や個性力を生かす教育体制を探っています。
英語教育を受け経済的余裕がある若者が、留学を経て、特にIT業界で国内外での活躍の場を広げています。いろな問題を抱えながらもインドはそのパワーを発揮(はっき)しつつあります。
インドと日本の習慣の違い
スシーラ・メノン
父は神様をとても信じている。それで私たち子供には毎日神様のお祈りをさせていた。父が教えてくれたもう一つのことは、お酒というものは世界でいちばん悪いもの。子供のときからそういうふうに考えさせられた私には、世界にあるものを重要さの順に並べたら、神様がいちばん上でお酒がいちばん下になる。そんな私が、あるとき日本へ行くことになった。日本で朝早くお店に行ったら、店のオーナーのおばさんは、開店の時間だったので、食べ物と何か水のようなものをおいてお祈りをしていた。インドでも神様の前に食べ物やお水を置いてお祈りをするので、同じだなと思った。ところが、それはお水じゃなくてお酒だと友だちに言われて、びっくりした。それから日本では神社でもお酒を神様にあげると聞いた。私の頭の中でのいちばん上のものといちばん下のものを日本人はつなげてしまった。それはインドと日本の習慣の違いだ。その違いから、上のものや下のものというのは人間の頭の中にしか存在していないということがわかった。
となりに「未完成の廃墟」ができる前のバンガロール大学外国語学科の姿
牧歌的だったんだなあ
MA Japanese Course. Centre for Global Languages, Bangalore University.
P.K. Block, Palace Road, Bangalore - 560009, India